「背守り」「紐飾り」といった言葉を聞いたことはありますか?
赤ちゃんがお宮参りの際に着用する産着に、古くは江戸時代より「背守り・紐飾り」という飾り縫いを施す風習がありました。
近年新たに見直されつつある「背守り・紐飾り」の意味や由来について紹介します。
目次
背守り・紐飾りとは?
「背守り」とは、お宮参りの際に赤ちゃんに着せる「産着」や「お祝い着(初着)」の背中部分に施す刺繍です。
ななめに縫ったものは「糸じるし」、絵や模様を模した刺繍は「背紋飾り」とも呼びます。
また、「紐飾り」とは、お祝い着の表側に「付け紐」を縫い付ける際に、縁起の良い図柄の刺繍を施したものです。
背守り(糸じるし)
着物の背中部分に糸を縫い付けます。「縦の縫い目」と「ななめの縫い目」があるのが特徴です。
背守り(背紋飾り)
襟の後ろに模様・絵柄を縫ったのが「背紋飾り」です。昔の女学生は、学校で背紋飾りの縫い方を習ったのだとか。
紐飾り
お宮参りのお祝い着(打ち掛け)には、表側に布の紐が付いています。この紐を飾り縫いにした縫い目部分が「紐飾り」と呼ばれます。
背守り・紐飾りの由来・歴史は?
背守りの由来
古くは鎌倉時代までさかのぼるそうですが、江戸時代から昭和初期にかけて「子供の健やかな成長を願う魔除け」として知られはじめたそうです。
日本には、古くから「人の魂は背中に宿っており、着物の背筋にある縫い目が『目』として忍び寄る魔を見張り、身を守ってくれる」という迷信がありました。
お宮参りの産着は「一つ身」と呼ばれますが、これは「背筋に縫い目のない着物」のことを指しています。
つまり、背縫いのない産着に飾り縫いをすることで、魔を見張る「目」の代わりとしていたわけですね。
紐飾りの由来
諸説あるようですが、「迷子のお守り」という風習が由来であるという説があります。
これは、子供用着物の襟裏に、紐飾りの縫い糸の余った部分を「あえて(切り離して)残しておく」というものです。
「迷子になって、もし悪いものに糸を引っ張られそうになっても(糸が着物から抜けて)捕まらずに済むように」という、おまじないの意味が込められています。
背守り・紐飾りにはどんなものがあるの?
背守り(せまもり/せもり)
糸を縦・ななめに縫い付けた背守りは「糸じるし」と呼ばれます。お宮参りに着用する産着の場合は、針を12回入れて仕上げるのが正式です(12ヶ月=1年を意味する)。
男児・女児で縫い方に違いがあり、男児なら「雄針で縦・左ななめに小刻みに縫う」、女児なら「雌針で縦と右ななめに大刻みで縫う」となります。
糸の端は、10センチほど残して切ったままにしておく・結ぶなど、さまざまなパターンがあるようです。糸の色は紅白、または五色(青・黄・赤・白・黒)の糸を使用します。
背紋飾り
普段着の産着や袖なし羽織などには、さまざまな絵柄・模様の「背紋飾り」が刺繍されていました。
縁起が良いとされる吉祥文様(きっしょうもんよう)の「亀」「コウモリ」といったデザインも用いられているようです。
また、襟元に布・紐を縫い付けた背紋飾りには「災害にあった際に、神さまが布・紐を引き上げて助けてくれる」との言い伝えもあるのだとか。
紐飾り
紐飾りも、熨斗(のし)や扇子といったさまざまな絵柄・模様を、主に紅白の糸で刺繍します。付け紐を縫い付ける際には、男児は下向きに縫い、女児は上向きに縫い付けます。
産着・祝い着に背守り・紐飾りを付けたい場合は?
家紋の刺繍とは異なり、「背守り・紐飾りのみの刺繍」はあまり取扱いがありません。
もし新しい産着を仕立てる場合は、呉服屋さんに相談してみましょう。「糸じるし」または「背紋飾り」をオーダーできることもあります。
また、地域イベントとして背守り・紐飾りの刺繍ワークショップを開催しているところもあるようです。お住いの地域情報をチェックしてみましょう。
(※紐飾りは、基本的には最初から縫われていることが多いようです)
【まとめ】子供を思う親心がこもった背守り・紐飾り
背中に忍び寄る邪気や魔物。かつては幼い子供の命を守る「魔除け」として縫われた「背守り・紐飾り」ですが、現代でも見直され、静かなブームとなりつつあります。
今も昔も、子供の健やかな成長と無事を願う気持ちは変わりませんね。